どこかの図書館

主に本と音楽の紹介しています。

アイデンティティとは 東野圭吾 『変身』

今回は東野圭吾さんによる小説『変身』について紹介していきます。 あらすじは強盗に頭部を拳銃で撃ち抜かれたが、最先端医療技術である脳移植手術で一命を取り留める。手術は成功を収め、主人公は体調を取り戻すが、違和感が少しづつ芽生えはじめ、、、とい…

運命の循環 森絵都『みかづき』

あなたは運命を信じますか?今の自分はなるべくしてこの状態になったと思えるでしょうか? アドラー心理学では自分の状態を決定づける運命など幻想である、と説いています。それは過去に引きずられている言い訳である、と。 しかし、小説というものは基本的…

猫好きに捧ぐ ディー・レディー『あたしの一生』江國香織訳

あなたは猫派でしょうか? 私は猫派です。昨今の猫ブームは留まるところを知りませんね。さて、今回紹介するのは、ある猫の一生を描いた作品『わたしの一生』という作品です。 猫を題材にした作品は沢山ありますが、この作品では猫の視点で話が進んでいきま…

感情の揺さぶり 辻村深月『子どもたちは夜と遊ぶ』

今回は辻村深月さんの小説『子どもたちは夜と遊ぶ』についてお話していきたいと思います。 辻村さんは感情の動きをとてもリアルに表現する作家さんとして知られていますが、この作品でもその能力は遺憾無く発揮されています。 例えば、登場人物がある事件に…

徹頭徹尾の仕掛け 中村文則『去年の冬、きみと別れ』

今回は『銃』や『教団X』などで知られる中村文則さんの作品、『去年の冬、きみと別れ』を紹介していきます。 中村さんの作品には絶対的な権力や力関係、不気味な勢力など、理不尽とも言える人間関係が構築されているものが多いです。その人間関係こそが作品…

多幸感のアルバム The Kooks『Junk of the Heart』

皆さんのお気入りの多幸感に満ちた音楽とはなんでしょうか。人はそれぞれ幸せの形が違うように皆さんそれぞれ思い思いの音楽がきっとあるでしょう。 私にとっての幸福を形にした音楽はこのThe Kooksによるアルバム『Junk of the Heart』に詰まっています。 T…

精緻なジグソーパズル 伊坂幸太郎『PK』

今回は伊坂幸太郎さんによる小説、『PK』を紹介していきます。 この作品のキーワードはパラレルワールドです。3つの短中編で構成されていますが、その作品どうしが絡み合いある世界を構成しています。 伊坂さんの作品にしばしば見られる全体の見えない権力の…

伊坂幸太郎『フーガはユーガ』

今回は伊坂幸太郎さんの小説『フーガはユーガ』を紹介していきます。 伊坂さんの作品には登場人物が理不尽な状況に巻き込まれていくことが多いです。勝手に犯人に仕立て上げられたり、知らず知らずのうちに権力に絡め取られたりしてしまいます。 この作品で…

そこに在るということ 西加奈子『きいろいゾウ』

ある夫婦が愛とはなにかを見つけていくお話。今回紹介する作品は西加奈子さんの小説『きいろいゾウ』です。 田舎に越したある夫婦の小さな日常の物語。物語前半は都会から離れた田舎でのスローライフがゆっくりとユーモアたっぷりに進んでいきます。日々語ら…

体験しえない感情への郷愁 Arcade Fire『The Suberbs』

カナダはモントリオール出身のインディーロックバンド、Arcade Fireの『The Suberbs』というアルバムの魅力をお伝えしていきたいと思います。 このアルバムの魅力を一言で言うなら郊外への郷愁です。 都市から少し離れた場所、場所を構成する要素が主に家庭…

顔を取り外す小説 西加奈子『ふくわらい』

小さい頃に福笑いをしたことがあるでしょうか。目が見えない状態で顔を組み立てるあの遊び。その福笑いに取り憑かれた女性が本作の主人公です。 作家は『サラバ』や『i』などで知られる、イランはテヘランの生まれ、大阪育ちの作家西加奈子さんです。 生い立…

アドラー心理学『嫌われる勇気』を読んで

哲人と青年の対話形式で行われる、アドラー心理学をわかりやすく説明した『嫌われる勇気』が200万部の出版を突破しました。国民総アドラーの時代も近いのかもしれません。 私もこの本を読み衝撃を受けた1人です。特に、「課題の分離」という考え方が刺激的で…

村田沙耶香『コンビニ人間』を読んで

クレイジー沙耶香たる所以を垣間見た。この作品の1番の感想はそれでした。全く人の心が読めない主人公に読者を惹き付け、魅力すら感じさせてしまう手腕。実は作者自身がこの主人公なのではないかと思わせる、そんな作品でした。 現に、村田さんのインタビュ…

辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』を読んで

薄曇りの青春群像劇を描かせたら辻村深月さんの右に出る作家は居ないんではなかろうか。そう思わせるほどの出来でした。高校生たちの関係性を多面的にかつ内省的に見事に書ききった作品だと思います。 しかも、これが第1作というのだから驚きです。 2018年に…