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そこに在るということ 西加奈子『きいろいゾウ』

ある夫婦が愛とはなにかを見つけていくお話。今回紹介する作品は西加奈子さんの小説『きいろいゾウ』です。

田舎に越したある夫婦の小さな日常の物語。物語前半は都会から離れた田舎でのスローライフがゆっくりとユーモアたっぷりに進んでいきます。日々語られる出来事はゆったりとしていて小さな幸せがそこかしこに溢れています。

しかし、物語が進むにつれてムコさん(夫はムコさんという名前です)の抱える過去の悲しみが見えてきます。そして、夫婦が共に関係を見直して、大事なものを見つけていきます。

西さんの他の作品『サラバ』などに見られるようにこの作品も主要人物が重く悲しい過去を抱えています。そして、その悲しみを乗り越え「愛」を見つけます。

西さんの作品では愛とトラウマが主題になることが多いように思います。しばしば、主人公達は他者に言われた言葉を引きずっていたり、ある出来事を忘れられないでいます。そして、それらを乗り越えるために愛の定義を必要とします。

この『きいろいゾウ』では夫婦の間に愛の定義を規定し、悲しみの昇華をはかっています。読者はこの作品を通じて、この夫婦とともに愛を見つけていくことになります。

スローに見える日常にも幸せと悲しみは溢れていて、そういったものをつぶさに見ること、感じることがどれだけ重要なのか深く学びました。

ある夫婦の素敵な日常を垣間見たい方は是非。

きいろいゾウ (小学館文庫)

きいろいゾウ (小学館文庫)