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運命の循環 森絵都『みかづき』

あなたは運命を信じますか?今の自分はなるべくしてこの状態になったと思えるでしょうか?

 

アドラー心理学では自分の状態を決定づける運命など幻想である、と説いています。それは過去に引きずられている言い訳である、と。

 

しかし、小説というものは基本的にある出来事がある出来事を引き起こすという形を工夫して見せるものだと思います。言い換えれば運命を如何に面白く描くか、そこに尽きるでしょう。そういった意味ではアドラー心理学とは真逆なのかも知れません。

 

さて、前置きが少し長くなりましたが、今回紹介する小説は、ひとつの家族の運命を見事に描ききった森絵都さんによる小説、『みかづき』です。

 

この作品を通して描かれるのは、ひとつの家族が塾という武器で教育を変えようとする真摯な姿です。

 

熱烈な気性を持った妻と穏やかで強く出られない夫。そして、そのような両親の個性を少しずつ受け継ぐ3人の子供たち。

 

物語が進むにつれて語り手の目線が変わっていきます。ただ、誰の目線であっても、その時々でこの家族の運命である「塾」に翻弄されつつ、必死に踏ん張って生きていく様子がきっちりと誠実に描かれています。また、目線が変わることによって家族それぞれの誤解や勘違い、あの出来事は実は、、、などの描き分けもされています。

 

また、「塾」という産業がどのようにして発展してきたのか。時代時代でどのような工夫をして、どのように公権力から制限を受けてきたのか、そういった側面もしっかり描かれています。

 

熱い家族に触れたい方は是非。教育業界に身を置いていたり、興味がある人にもおすすめしたいです。

みかづき (集英社文庫)

みかづき (集英社文庫)

  • 作者:森 絵都
  • 発売日: 2018/11/20
  • メディア: 文庫