徹頭徹尾の仕掛け 中村文則『去年の冬、きみと別れ』
今回は『銃』や『教団X』などで知られる中村文則さんの作品、『去年の冬、きみと別れ』を紹介していきます。
中村さんの作品には絶対的な権力や力関係、不気味な勢力など、理不尽とも言える人間関係が構築されているものが多いです。その人間関係こそが作品の主題であることが多いです。
しかし、この作品では力関係にはそこまで重きを置かれていません。むしろ、力関係への理解、関係性を説き明かすことこそが主題と言えます。
解き明かすことへの手がかりでこの小説が構成されていると言っても過言ではないでしょう。徹頭徹尾、仕掛けが施されています。繋がりが切れるように見えて実は、、、というような裏切りが連続していきます。
もちろん、中村作品特有の不気味な登場人物は健在ですのでご安心を。世間に対する斜めの観点も巧妙な語り口もあります。
ただ、読み終わってからはきちんと全体像が見渡せる構造になっているので、余白を残すような部分は他の作品に比べて少ないかもしれません。
やはり、この作品は解き明かすことが重要であると思います。
作品を解き明かすことが好きな方は是非に。至る所を疑いたくなること間違いなしです。