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感情の揺さぶり 辻村深月『子どもたちは夜と遊ぶ』

今回は辻村深月さんの小説『子どもたちは夜と遊ぶ』についてお話していきたいと思います。

 

辻村さんは感情の動きをとてもリアルに表現する作家さんとして知られていますが、この作品でもその能力は遺憾無く発揮されています。

例えば、登場人物がある事件に対して心を痛めることがあります。大抵の作家はその心の動きの記述だけで終わらせます。しかし、辻村さんはその心を痛めることすら偽善なんではないかと自分自身を責めたり、追い詰めてしまいます。

ひとつの感情だけで終わらない部分が辻村さんの特徴であり、私たちの心をこれでもかと揺さぶる秘密なのでしょう。

 

この作品では非常に人間らしい感情の動きに満ちています。健全とは言えない友情の形だったり、踏み出せない恋心だったり、致命的な誤解だったり。それらはどうしようもなく、私たちの心に入り込んで掻き乱します。

 

暗い過去を持つ人物がある経緯で生き別れた兄を見つけ、兄に会うために殺人ゲームを行っていく、というストーリー。

 

作品の中の事件の全容が見えた時には人間の歪さ、悲しさ、愛おしさが溢れます。読者自身の感情もそこに見出すことが出来ると思います。

 

絶対に体験することは無いような事件なのにそこに自分のかつて持っていた感情を見出してしまう。この感情を引き出してしまう描写力は今の日本社会が必要にしている力なのかもしれません。

 

もちろん、辻村さんのお家芸でもある伏線回収の鮮やかさ、真相解明へのキーワードの配置なども楽しめます。

 

心を揺さぶられたい方は是非。

子どもたちは夜と遊ぶ (上) (講談社文庫)

子どもたちは夜と遊ぶ (上) (講談社文庫)

  • 作者:辻村 深月
  • 発売日: 2008/05/15
  • メディア: 文庫