アイデンティティとは 東野圭吾 『変身』
今回は東野圭吾さんによる小説『変身』について紹介していきます。
あらすじは強盗に頭部を拳銃で撃ち抜かれたが、最先端医療技術である脳移植手術で一命を取り留める。手術は成功を収め、主人公は体調を取り戻すが、違和感が少しづつ芽生えはじめ、、、というものです。
技術系のバックグラウンドを持つせいか、東野圭吾さんの作品は内容に理科系の技術や構想を持ち込むものが多いです。この作品も脳移植という医療技術が中心のテーマとして据えられています。
もちろん、架空の技術であると思いますが、その技術についての説明は理論立っていて本当に存在するように思えてしまいます。
また、モチーフだけではなく、東野さんの文体にも技術系の考え方が息づいていると思います。回り道をせず物事をストレートに言う文体で透明な印象を受けます。感情表現も分かりやすいです。それらの特徴が読みやすさを産んでいるのだと思います。
東野さんの作品が多くの方に支持されている理由はこの読みやすさに求めることが出来るでしょう。
ただ、感情表現が分かりやすくても「浅い」わけではなく、むしろ難しいテーマに対して誠実に理論を詰めている「深さ」もあります。
本作品ではアイデンティティとは、という深遠な問いに対して主人公の行動や考え方、周りの思惑を通じてアプローチを取っています。
読んでいると初めのうちはありがちなジキルとハイド的な作品のように思えます。しかし、実はもっと悲しみが溢れています。淡白に見える叙述で感情の色彩を彩ることが出来るのは東野さんの計算力なのでしょう。
本は苦手だけどなにか読書がしたいなあ、という方は是非。東野さんの作品から読書の面白さに気づいてみませんか?