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顔を取り外す小説 西加奈子『ふくわらい』

小さい頃に福笑いをしたことがあるでしょうか。目が見えない状態で顔を組み立てるあの遊び。その福笑いに取り憑かれた女性が本作の主人公です。

作家は『サラバ』や『i』などで知られる、イランはテヘランの生まれ、大阪育ちの作家西加奈子さんです。

生い立ちが影響しているのか、西さんの作品には社会的マイノリティの人々が主人公となることが多いです。

この『ふくわらい』の主人公もマイノリティの要素を確かに持っています。ただ、福笑いを通じて世界と触れ合うという今まで見た事がないマイノリティで、最初は違和感が伴います。なにせ、福笑いよろしくどんどん人の顔のパーツを変えてしまうのですから。言うなれば認知のマイノリティでしょうか。また、主人公の家族背景も「普通」ではありません。

そんな他人の顔を弄ぶという今までに聞いたことがない癖をもち、人を表面でしか理解できない彼女が少しずつ人を3次元で理解していく様は激しく、幸福に満ちていました。

人の機微を読めないという点では村田沙耶香さんの『コンビニ人間』に主人公の像が似てるとも思います。ただ、2人の辿った奇跡は全くの逆ですが。

西さんの作品はユーモラスな作品(『サラバ』など)と悲しさが多い作品(『i』など)の2つに大きく分かれますが、この作品はどちらとも判断がつきません。ユーモアもあり、悲しいところもあり。やや悲しみの強い中道右派といったところでしょうか。

本作でキーワードになっているのは顔でしょう。主人公が自由自在に変えてしまう顔。人のアイデンティティを司る顔。そのアイデンティティが通じない人物を描いた本作。福笑いに思いを馳せたい人、顔を自在に変えられたい人は是非。

ふくわらい (朝日文庫)

ふくわらい (朝日文庫)